光市立浅江中学校のコミュニティ・ルームついて伊藤幸子校長にお聞きしました。
1.生涯学習におけるコミュニティ・スクールの役割
質問1:コミュニティ・ルームのような開放的なスペースの設置を継続する目的
伊藤校長 社会環境の変化の中で、かつて多くの地域で見られていたような、子どもたちと大人の交流や異年齢の子ども同士の遊びといった光景が少なくなってきました。一方で、勉強や部活動に追われている子どもたちは、学校と家庭と塾を往復する毎日です。そんな中で、体験の不足による社会性や自尊感情の低下など、子どもたちの育ちに関わる様々な問題が指摘されています。学校が、地域の大人との日常的なふれあいの場や、大人の経験や知識を子どもたちと共有できる場として活用できること。それによって、子どもたちの育ちや学びをより豊かなものにしたいというのが、学校を開放する第一の目的でした。コミュニティ・ルームはその拠点。学校における地域の大人の居場所という機能をもっています。
質問2:コミュニティ・ルームの最大の効果
伊藤校長 まだまだ敷居の高かった学校が、地域住民や保護者にとって跨ぎやすくなったことでしょうか。本校は、たまたま昇降口から一番近い場所に、普段あまり使われていない教室がありました。そこをコミュニティ・ルームとして開放することにより、教員と生徒の二者で構築されてきた学校文化というか、それまでの雰囲気が一気にオープンなものとなりました。学校の空気が以前よりもやわらかいものに変化し、学校の日常が活性化してきたような気がしています。
質問3:公民館活動やNPOなどによる学校開放事業との違い
伊藤校長 子どもたちの成長を支えていくことが第一の目的であるという点です。全ての活動がそこに向かっています。例えば、地域住民を対象とした英会話教室(「あさなえ英会話」)は、開始から5年目を迎えますが、大人がいくつになっても楽しそうに学習している姿にふれることによって、子どもたちは生涯学習というものを無意識のうちに感じ取っていきます。また、受講者の方には、時々、英語や近隣の小学校の外国語活動の授業に入っていただいていますが、子どもたちは、地域の方が物怖じせずに英語で会話をされている様子を見て、たくさんの刺激を受けているようです。
2.地域の教育力向上について
質問4:コミュニティ・ルームは地域の教育力向上に貢献するか
伊藤校長 コミュニティ・ルームにおける活動内容にもよりますが、地域の教育力向上のきっかけとなる可能性は大いにあると思います。本校の「あさなえほっぷ」は、年6回のプログラムで実施していますが、保護者だけでなく、地域の方が参加されることもあります。子育て」にかかわるテーマが主ですが、こうした学びの場が、やがて「防災」や「地域づくり」をテーマにした話し合いの場に広がり、より多くの人を巻き込んでいく可能性はあると思っています。
質問5:コミュニティ・ルームによって、地域住民のヨコの関係に何か変化が生じたか
伊藤校長 「あさなえ英会話」や「あさなえフラットデー」など、楽しそうに学校を訪れ、活動をしていらっしゃる方々の姿を見て、参加者も少しずつ増え、それまでつながりのなかった人同士もつながっていっています。今では、花見や忘年会などを共に楽しまれるような仲間として交流されているようです。コミュニティ・ルームを利用される方は、地域全体の割合からすると僅かな人数ですが、何かをしようとしたとき、例えば学校で大きな行事を行おうとしたとき、核となって人を集めてくださったり、動いてくださったりする方々です。地域住民のヨコの関係に対しても、何らかの影響力があるのではないかと思っています。
質問6:地域住民による自発的で積極的な活動はみられたか
伊藤校長 「あさなえ英会話」や「あさなえフラットデー」などの、コミュニティ・ルームにおける活動は、全て地域の方が主となって運営されています。その他、コミュニティ・スクールの各種プランも、プロジェクト部会等での話し合いにより、方向性や具体的な内容が学校と共有されていますので、地域の方の動きも主体的です。これまでの活動の中で特に印象に残っているのは、平成27年8月の「世界スカウトジャンボリー」です。海外のスカウトたちを学校に招いて盆踊り体験をしてもらうために、体育館での櫓作りや当日の運営などで多くの地域住民が活躍されたことは、地域の力を改めて感じさせるとともに、学校と地域の関係性をより強いものにしました。
質問7:コミュニティ・ルームに対する教職員の考えや反応の変化
伊藤校長 本校のコミュニティ・スクールの取組がスタートしたのが平成21年度で、コミュニティ・ルームの開設が平成26年度です。この5年の間で、様々な活動を通じて学校と地域の結びつきは、より深いものになっていました。したがって、コミュニティ・ルームも比較的自然な流れの中で、開設に至ったように思います。コミュニティ・ルームの開設に限らず、教職員と地域の方々の思いの共有・調整は、年間を通じて計画的に開催しているコミュニティ・スクールの各種会議を通じて行われます。本校では、プロジェクト部会(心の教育部会・学力向上部会・体力つくり部会)で企画をし、企画推進委員会で3つの部会で話し合われたことを多角的に検討・調整し、学校運営協議会で審議・決定するという三層構造の仕組みをとっています。このプロセスの中で、教職員も地域住民もPTAも生徒会も対等な立場で意見を出し合い、お互いの考え方を理解した上で、よりよいものを創り上げていこうとしているわけです。地域との連携・協働を進めていけば、教員文化の閉鎖性というものは自ずと薄れていくのではないでしょうか。
質問8:コミュニティ・ルームの設置を考えている学校へのアドバイス
伊藤校長 いそがしい学校現場では、教職員がコミュニティ・ルームのお世話にするのは無理があります。できれば、地域の方の中からコーディネーターをお願いし、その方を中心にコミュニティ・ルームを運営していただくとよいと思います。本校では、コミュニティ・ルームを、「あさなえ英会話」(毎週1回程度)、「あさなえフラットデー」(花生けの日、毎月1回)、「あさなえほっぷ」(家庭教育学級、年6回)の活動の場として使っていただいているほか、地域の方々が日々の授業支援に入られる際の控え室としても活用していただいています。 地域のコーディネーターさんは2人いらっしゃいますが、コミュニティ・ルームに常駐されているわけではなく、活動のある時間帯に合わせて来校され、皆さんと一緒に活動を楽しんでいらっしゃいます。また、歴代のコーディネーターさんも続けて関わってくださっており、一人に過度な負担がかかることのないように気を配っておられるようです。小さな空間であっても、学校にコミュニティ・ルームがあると、そこから様々なアイディアが生まれてきます。学校や地域の実情に合った活動を考え、無理のないところから始めるとよいと思います。やっていくと、人と人がつながり、活動がまた次の活動を生み、というふうに、人も活動も少しずつ広がり発展していくと思います。
3.子どもと地域住民との協働
質問9:子どもが地域の活動に積極的に参加することで、どのような力を身に付けたか
伊藤校長 全国学力・学習状況調査の生徒質問紙によると、本校の生徒は、「今住んでいる地域の行事に参加している」「地域社会などでボランティアに参加したことがある」「授業や課外活動で地域のことを調べたり、地域の人と関わったりする機会がある」といったことについて、比較的高い割合で肯定的な回答をしています。また、「地域や社会で起こっている問題や出来事に関心がある」「地域や社会をよくするために何をすべきかを考えることがある」「人の役に立つ人間になりたいと思う」「自分にはよいところがある」「将来の夢や目標をもっている」といったことについても、全国の状況と比べて、肯定的な回答がいずれも高い割合で現れています。年によって多少の差はありますが、ほぼ毎年同じような傾向が続いています。どのような活動が子どもたちのどのような成長に結びついているのかといったことについてはわかりませんが、地域との連携・協働を通じた豊かな体験が、トータルとして子どもたちの心の成長を促し、自己肯定感や社会的正義感、将来への希望など、子どもたちが生きていく上で必要な資質・能力を高めていると考えています。
4.コミュニティ・スクールの価値
質問10:コミュニティ・スクールと開かれた学校づくりとの関係について
伊藤校長 コミュニティ・スクールは、学校経営(学校づくり)の一つの手法です。学校経営は、経営資源を調達して、それらを活かしながら、組織を通して目標を達成しようとする営みですが、コミュニティ・スクールとなることにより、資源がより豊富で多彩となり、したがって経営自体も多彩でおもしろみを増していくということが言えるのではないでしょうか。アイディア次第で、学校だけではできなかったことが可能となっていく。しかも、システムがしっかりとしているので、安定的で、人が変わっても継続していくというのが、コミュニティ・スクールの強みです。
コミュニティ・スクールは、地域や家庭も責任をもって学校経営に参画するためのシステムですが、そのめざすところは、当然のことながら、子どもたちの成長を豊かなものにしていくことです。しかし、それをやっていくと、結果的に、そこに関わる大人もやりがいを見つけ、元気になっていきます。だから、学校づくりは、結局、人づくりにつながっていきます。さらに、そこに人が集い、人々のヨコのつながりができることにより、絆が生まれ、地域づくりにもつながっていくというのが、コミュニティ・スクールをやっていて感じることです。学校は地域づくりもやらなければならないのかとよく言われますが、私たちが日々やっていることは、やはり学校づくりです。けれども、それをやっていくと、人づくりや地域づくりにもつながっていく。ここに、コミュニティ・スクールの学校教育という枠を越えた無限の可能性が感じられるのです。だから、ゴールがどこにあるのか、まだまだ見えません。
本校は、今年でコミュニティ・スクールの取組開始から10年目になります。この節目にこれまでの取組を振り返り、一旦整理をし、また次のステージに向けて踏み出していきたいと考えています。
( 平成30年9月26日 )